PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

THE IMITATION GAME(邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密)



本年度アカデミー賞脚色賞を受賞したカンバーバッチ最新作、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』を観てきました。
公式HPは → → → コチラ



愛情と敬意にあふれた映画

本作は、幾重のマイノリティに属した人の数奇な半生を描いた作品だ。主人公はアラン・チューリング、英国の数学者である。戦時下におけるエニグマ(ドイツの暗号機)の解読という特殊任務に携わるほどの天才であり、極めて社交性や空気を読む能力に欠け(その言動から、現在ではアスペルガー症候群であったのではないかと推察されている)、セクシャル・マイノリティであった。チューリングは戦後に大学教員に復帰したが(戦時中の特殊任務については一切の口外を許されなかった)、40歳のときに自宅の泥棒事件を契機として同性愛者であることが発覚、当時の英国では違法であったため強制的な女性ホルモン投与を受けることになり、その一年後に自殺している。本作では件の泥棒事件で幕を明け、戦時下におけるエニグマ解読プロジェクトを中核に、同性愛者として逮捕された後の取調室のシーン、パブリックスクールに通っていた少年時代が交錯しながら話が進んで行く。

実在している/した人物を描いた作品を作ることがとても難しいことは、容易に想像できるし、その理由についても然りだ。それではbased on a true storyな映画に何ができるかと言えば、「私たちはこの人物をこう捉える」というパースペクティブ(見方)の提示しかないのではないだろうか。そして私たち観客は、事実との相違云々とは別に、そのパースペクティブに共感できるか否かで作品を評価するしかないかと思う。私は、本作は実在の人物を描く映画としては稀に見る傑作だと感じた。

無論、実際と違う点や美化されている部分は多々あるだろうと思う。本人の顔写真を見たが、お世辞にもカンバーバッチ氏のような繊細なイケメンとは言えない。映画でも空気の読めなさは描かれているが、現実はもっと悲惨で過酷であっただろう。同性愛者としての側面も少年時代の美しく清らかな初恋に焦点を当てることで薄められている。すべてが綺麗に描き過かれすぎていることは違いない。しかしパースペクティブとは、取捨選択のデフォルメだ。蓋をしたい生々しい現実を捨てて、作り手たちが取ったのはチューリングが一生抱えていたであろう自分が"普通じゃない"という感覚であった。そして、本作が素晴らしいのは、この感覚を妙な僻み根性や上から目線だとか、逆に変な憐憫を混ぜたシリアスタッチではなく、敬意と愛情を持って描いていることだ。いろいろな時代のチューリングを交錯させながら、その感覚がどのように彼のなかで芽生え、どのように変化し、どのような結末に到ったのかを丁寧に辿っている。センセーショナルに描こうと思えばいくらでもネタがある人生だっただろう。でも、それは敢えて拾わない − 作り手たちの高潔とも云えるかもしれないチューリングに対する敬意と愛情が中心にあるのだ。そのことは、生涯に渡りチューリングの良き理解者であった女性ジョーン・クラークに「あなたが普通でないから、世界はこんなに素晴らしいのよ」と言わせていることや、あのシーンと字幕で最後を締め括っていることからも分かる。ぬるいかもしれないが、私はそういう高潔さが好きだ。

無論、作り手たちの高い志だけで良い映画ができるわけではない。本作は、8部門とかなり多くノミネートされたにもかかわらず結局受賞したのは脚色賞のみであったが、取るなら間違いなく脚色賞というほど脚本が素晴らしかった(物語の運び方が特に秀逸。あれだけ好意的に描いていながら、英雄か犯罪者かと本人に問いかけさせる確信犯ぶりもよい)。そして、カンバーバッチ氏の演技は最初から最後まで完璧であった。3拍子揃えば、当然傑作になるというわけだ。これほど心地よい余韻に浸れた映画は久しぶりである。

| 映画レビュー | 23:12 | comments:0 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://pltr0.blog37.fc2.com/tb.php/1498-5b64b87d

TRACKBACK

NEWER | PAGE-SELECT | OLDER