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THE THEORY OF EVERYTHING(邦題:『博士と彼女のセオリー』)



スティーヴン・ホーキング博士と元妻のジェーンの日々を描いた、『博士と彼女のセオリー』を観てきました。
公式HPは → → → コチラ


まったく、英国映画というやつは

どうして、人生を描く英国映画はいつもこうなのだろう。「地味」と「滋味深い」が紙一重で、物語を淡々と(「粛々と」とすら表現してよい)進めていく。私たちの人生は、ドラマやCMで過剰に彩られるほど幸せいっぱいでも不幸ばかりでもない - ただlife goes onなのだと - 云わんばかりに。しかし、私はそういう英国映画が昔から好きなのである。

本作は、スティーヴン・ホーキング博士の元妻であるジェーンの回顧録をベースにした、夫婦の物語である。トレーラーだけを観ると、然も2人の強い絆と夫婦愛が全面に描かれているような編集の仕方だが、そんな甘ったるいものでは終わらないのがブリティッシュの気骨である。江國香織は、ある小説のあとがきで「よそのうちのなかをみるのはおもしろい。その独自性、その閉鎖性。」と書いているが、この映画はまさに夫婦の"閉鎖性"を上手にすくって描いている。夫婦というのはとても複雑で不思議な関係性で、2人以外に立ち入れない閉鎖された空間だと私は思う。その閉鎖された空間に何十年とふたりっきりにされても息苦しさや戸惑いを感じないと信じられたから結婚したのだと。ふたりの間には、ふたり以外の人間にとやかく言われたくはないセオリーがあり、それは常に結婚生活という事実から帰納的に導き出された論理だ。だから端から見れば矛盾だらけだったとしても、あるいは最終的にふたりが別離せざるを得ない結末に至ったとしても、その論理が破綻することはないし、変更や上書きすることもできない。まして、本作の主人公は、類い稀なる才能で全世界的な名声を得ている有名人で、重度の難病を持つ夫である。彼を支え3人の子供を育ててきた妻を良妻賢母と賞賛するとか、ふたりの愛の絆は素晴らしいと熱っぽく主張するだけでは短絡な論理にすぎるというのは、赤の他人でも分かる。

本作の素晴らしいところは、江國香織の云うところの「閉鎖性」をきっちり描いているということだ。博士号をとった後のお祝い会で妻や友人たちが両手を自由に使って食事を愉しむ姿を見て複雑に屈折するホーキング博士の瞳。急激に名声を得ていく夫を誇らしく思いながらも、子育てと介護の限界を感じて少し息苦しくなる妻。そして「普通の」家族を望む気持ち。夫が声を失ったときのふたり。お互いに愛情がなくなったわけではないのに、より良いパートナーに惹かれていくふたり。何となく別々の世界に生きているような気持ちを無視できなくなっている空気。夫婦の持つ閉鎖性を淡々と事実を重ねることで描きながら、しかし光り輝く庭園を俯瞰するラストシーンではこのふたりの結婚生活は決して不幸だったわけではないし、現在ふたりは幸せなのだと納得させられる。余計に踏み込んだりしないし、そうかと言ってあまり遠くから傍観しているわけでもない - それが英国映画に共通する立ち位置だと思う。私はそんなパースペクティブが好きだ。

ホーキング博士を演じ、今年のアカデミー主演男優賞をとったエディ・レッドメンの演技は受賞も納得の素晴らしさだった。この人は名家の出身で自身も高学歴なイケメンと申し分ないサラブレッドなのだが、その生まれついての品の良さのようなものが作品全体をとても清潔でキリリと引き締めている。育ちの良さというのも努力で体得できる類いのものではなく、giftなのだということがよく分かる。急いで付け足しておくと、タイトルまであっさりした冒頭部と、それに対する実に壮大なエンドロールの組み合わせも素敵であった。

ところで、私は理系分野に相当疎い人間(なにせ小学6年生まで9時15分前が8時45分だということが瞬時に計算できなかった)なので、ホーキング博士というのは日本のテレビとかにたまに出てくる"学者風の人"(自分で何か原理を見つけ出したりはできないが、既知の難しいことを分かりやすく(でも結構都合よく)説明することが得意な人たち)だと思っていたが、本作を観てそうではないということを理解し、とても恥ずかしい思いをした。典型的な"奇人変人タイプの幸福な研究者"だったわけだ。大学院生のときに余命2年と宣告された博士は、御歳73でいまでも研究に没頭している。もちろん、元妻は大切な友人だそうだ。長年を共に歩いてきた/歩いている/歩こうとしているパートナーと一緒にご覧になっていただきたい、地味だが滋味深い秀作である。

| 映画レビュー | 23:08 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

> take-projectさん

返信が遅くなり失礼しました。

私も人混みは苦手(というかすぐイラチになる)ですし
確かにUSJもどこも人ばかりで大変ですが、ぜひ一度奥さまといらしてください。
行ったら行ったで楽しいのも確かですから。

いつか記事がアップされることを楽しみにしています!

| pltr0 | 2015/04/21 22:47 | URL | ≫ EDIT

pltr0さん、こんばんは。

USJのハリーポッターに行きたいと嫁さんと話をしながらもまだ実現していません。
基本的に私が人混みがあんまり好きではないからでしょうね。
でも行ったら行ったで楽しいんですけどね。

今年こそって思っている私がいます。

| take-project | 2015/04/13 21:59 | URL | ≫ EDIT















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