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DOCTORS IN ISOLATED ROOM

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凡庸ではない悲しさ

「何か、そう......、普通の恋愛とか、愛情の縺れ、というだけではなくて、明らかに違う力が感じられますなあ」本部長がしみじみと言った。「学問を志す者の純粋さを傷つけた、その行為に対する怒り、でしょうか?」
「はあ、そうですね」犀川は曖昧に答えた。西之園本部長の言っていることがわからないわけではないが、それは自分では感じたことのない異質な感情に思われた。「でも、学問というのは本来虚しいものですよ」
そう、本来、外部から傷つけられるようなものではないのだ。

森博嗣 『冷たい密室と博士たち』 - Kindle版 位置No.4249-


S&Mシリーズ第2作は、どうやら多くの人たちに第1作目のインパクトからすると"凡庸"であると評価されているようだ。なるほど、舞台は犀川先生が勤務するN大で少々学園モノっぽい雰囲気、動機もいかにも2時間サスペンスドラマ的であった。しかし、私は完全無欠であったり人間味の薄い人々ばかりが出てくる第1作目より、本作の方が物語として深度がある(それが俗っぽいか否かは別の問題として)と思った。この小説は、研究能力以外の要素で負けて、貧乏クジを引かざるを得なかった研究者の悲しみを描いている。もしかして研究者の話でなかったら、ここまで悲しい話とは感じなかったかもしれない。

最も悲しいのは、引用箇所の後で犀川先生が心の中で呟くことだった。たとえ著者が殺人犯になったとしても、その人の業績は独立して存在し続け、価値のあるものなら後世に引用され続けるということがとてつもなく悲しい。しかし同時に、それは孤高かつ美しいことでもある。森氏は、真賀田四季博士ほどではないにせよ天才という存在が好きなのだろう。

そしてもう1つ、極地研における研究者同士のやるせない人間関係を陰とするなら、犀川先生と喜多先生の同期研究者同士の関係を陽として1つの作品のなかで描いているのも面白い(また、その関係の描き方にリアリティがある)。まだ全シリーズ読破していないので分からないが、喜多先生のような研究仲間との友情が全編に渡って描かれているのが本作だけだとしたら、それは実際に研究者であった森氏の優しさではないかと思う。

| フェス | 23:58 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

> invisible Aさん

-myな一週間を愉しんで読ませていただきました。体調は大丈夫ですか?

また密室かよと思いながら3作目を読んでいる最中です。
どうやら3作目は純粋な数学的トリックのようですが
まるで数学が駄目な私が理解できるか少々心配です。
少なくとも、第9作目に辿り着くまでは止めるわけにはいきませんね(否、シリーズ読破しますよ)。

少し前までスマホでゲームとか鼻で笑っていましたが、やり始めると止まらないものです。
つまるところ、現実逃避なのだと思います(師走ですから、笑。

| pltr0 | 2015/12/27 23:21 | URL | ≫ EDIT

pltr0さんに多少は響く部分があったみたいで、ほっとしました。
貴重なお時間を奪うようなことを半ば強制してしまったのでかなりの罪悪感が・・・。

対照的な犀川と喜多の友情、いいですよね。出ずっぱりではないけれど、喜多の出番は今後もあります。
それから、凡人には計り知れない次元で深く通じ合っている犀川と国枝桃子の何ともいえない関係も実に素敵です。

主要キャラクタ(といっていいのかわかりませんが)はもう数人増えるので、お楽しみに。


ちなみに私は、pltr0さんに「FFメビウスって何ですか?」と訊かなければならないぐらい時流に取り残されてます。ここ最近は仕事しているか寝ているか森博嗣を読んでいるかしかしてないような状態なので。

| invisibleA | 2015/12/15 02:02 | URL | ≫ EDIT















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