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聖の青春



西の怪童と称された棋士村山聖の人生を描いた、『聖の青春』を観てきました。
公式HPは → → → コチラ


采配ミスと言わざるを得ない

本作は、大崎善生氏の同名ノンフィクションを映像化したものである。主人公は、村山聖。ネフローゼ症候群を患いながらも将棋に人生を懸け、膀胱癌再発で1998年に逝去した天才棋士である。大崎氏の小説版はネフローゼを発症する幼少期から死去するまで彼の人生すべてを克明に描き出しているが、映画版は成人以降(東京へ移住する少し前)から話が始まり、羽生氏との最後の対局(第47回NHK杯テレビ将棋トーナメント決勝戦)をクライマックスにしている。少し前に小説版を読了後、観るのを大いに期待していた。それだけ大崎氏の小説が素晴らしかったからだ。

将棋雑誌の編集長だった大崎氏の処女作である小説は、いささか奇妙なノンフィクション伝記だった。読んでいて最も驚いたのは、大崎氏自身が「私」として突如作中に登場したり、村山氏との個人的な思い出話や自分の思いを語ったりすることだ。これは他人の手による伝記として禁じ手で、偏っている時点でノンフィクションとしても失格であると思う。処女作ということを差し引いても"元編集長が書いた"以上の文章力は見出せないし、もはや個人の回想話レベルになっているような箇所もあった。しかし一方で、大崎氏の語る村山棋士の人生にグイグイ引き込まれて一気に読了してしまった。逆説的だが、偏愛に満ちた文章だったからだろうと思う。語り口にも、ひとつひとつのエピソードにも、深い愛情と敬意に満ちていた。巧拙を超えて、大崎氏にしか書けない村山聖の人生だった。

映画版には、その愛情と敬意が感じられなかった。トレーラーが"優秀すぎる"邦画は失敗作が多いというのが私の経験則だが、過剰に期待していたせいか不満は多かった。確かに原作のエピソードが散りばめられているが、ほどんどが説明皆無で、これには登場人物がこれ見よがしに解説するセリフが嫌いな私でも焦ってしまった(たとえば、聖が自宅で寝込んでいるとき水滴が落ちる音がしている描写は出てくるのだが、これは目を覚ましたとき自分が生きていることを確認するためにわざと蛇口を緩めていたことを、説明なしで察せよということなのだろうか)。大袈裟なギターのうねりを被せた車窓からの流れる風景、白鳥が飛来するシーン、対戦前に聖が白銀のなかで一人ポツリと立っていたり海岸を歩いたりするシーンは、格好よい心理描写として用いているのだろうと想像できるが、唐突な上に無駄に長く、その割には何の心情を表しているのか曖昧だ。内容が薄いのに上映時間を長く感じるのは、そういう意味不明なカットが多すぎるためだろう。最大の不満は、村山聖の一生を描くという方法を捨ててまで羽生善治とのライバル関係に焦点を当てているのに、その肝となる重要な関係性を、結局のところ竜王戦の対羽生戦後にふたりで飲みに行った定食屋でのやりとりのみでしか語れないということだった(しかも、クライマックスとなるNHK杯決勝戦でそのやりとりを使い回している)。ファン贔屓ではないが、秦くんが書き下ろした主題歌の歌詞の方が、村山聖の人生を通して伝えたいことを明確にすくい取って表現しているように思う。

酷評は本ブログの映画レビューの趣旨ではないが、これだけの人物をモチーフにできて、優秀な原作があり、掛け値なしに絶賛できる演技をした主演男優を迎えたのに、こんな作品になってしまったことが本当に残念で仕方がない。

| 映画レビュー | 23:22 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

> invisibleAさん

私も奥様と同じく松ケン贔屓なのでどうにか観通す寛容さを保てましたが
この映画は...レンタルが始まったらでよいかと思います。
原作は上述の通りなので、未読でしたら貴兄にもお勧めしたいです。

原作付きの映画は、何をどう作っても誰かから文句が出るものなので
前後編でも、大胆なエピソードカットでも、監督が好きなように作ってよいと思っています。
ただ、その決断をした意志は強く感じたい(共感できるか否かは別として)。
本作には、何より監督の「私はこう描きたい」という意志が感じられません。
その意味では、好き嫌い以前に、何の爪痕も残さず感想が持てないという印象でした。

| pltr0 | 2016/12/04 22:45 | URL | ≫ EDIT

こんばんは。
松ケンにあんまり好印象がない(ほとんど出演作を観たことがないけど)私と、松ケンは好きだけど将棋のルールもほぼ知らない(でもあの将棋アニメは楽しみに観ている)妻が、珍しく「これは観たいね」と一致した映画だったのですが、やっぱり残念な内容なのですねえ。

だいたい、僕はどうしても原作付き映画の場合は時間的制約(業界的な言葉でいうと尺が足りない?)が気になって楽しめないことのほうが多いのですが、最近よくあるような前篇・後編みたいに分かれた映画はどうなんでしょうか。よく考えるとその手の映画も観た記憶がないので・・・。

| invisibleA | 2016/11/30 01:13 | URL | ≫ EDIT















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