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Norwegian Wood ノルウェイの森



ついに映像化された、『ノルウェイの森』を観てきました。
公式HPは → → → コチラ


格調高いポルノ映画

そう言ってしまえば身も蓋もないし、それは表面的な部分だけで決めてしまっている浅はかな感想だとお叱りを受けるかもしれない。でも、最初に頭に浮かんだフレーズがそれだった。しかし、映画版ばかりをポルノ呼ばわりするのは酷だと思う。タイトルとなっているビートルズの"Norwegian Wood (This bird has flown) "も牧歌的なメロディとは裏腹の何とも言い難い歌詞だし、そもそも原作だって、「ひゅう。恥ずかしいわねえ、こういう話。汗が出ちゃうわ。やってくれたとかいっちゃったとか(下巻p.21)」というような話が20頁に一度ぐらい出てきそうな小説なのだから。

それでも、原作は何百回と繰り返し読むに耐える素晴らしい作品だと思っている(そして、実際に何百回と読んでいる)。そして、小説を原作とする映画を観るたびに、映画版はどうしたって原作に勝てるわけがないと思う。それは、『ノルウェイの森』の場合、527頁と133分の間と、人間の想像力とイメージが固定される映像の間にある、大きな隔たりだと思う。

この映画では、冒頭の飛行機内のシーンはないし(個人的には、とても大切な導入部で外せないシーンだと思っていた)、直子やレイコさんの過去ー幼少期に体験した姉の自殺や、少女に人生の歯車を狂わされた経緯などーについて、特攻隊の話も、ほぼすべて割愛されている。緑とワタナベの初キスは近所の火事を一通り見た後ではないし、最後にレイコさんがワタナベを訪れるシーンでも、レイコさんは(ギターを弾かず)事及んでさっさと旅だってしまう。そういう"エピソードの取捨選択"という点からして、違和感を覚えないと言えば嘘になる。原作者が527頁で語り尽くした物語を133分に収めるためには、必ず何かしらを割愛しなければならない。その意味では、物語のどの部分に焦点を当てるかで、まったく別の印象を持つ映画ができるはずだ。そして、トラン・アン・ユン監督は"特に重点的にセックス絡みの話を選んでいる"と言えると思う(脚本も監督自身が書いている)。原作者自身が常々言うように、一度出版されたテクストはすべての人に開かれているのだから、正しい選択なのか否か、それはどうでもよい問題だ。そして、トラン・アン・ユン監督は自分の選んだエピソードを、彼特有の湿度たっぷりの映像で、すべからく美しく映し出している。それが、彼の答えだと思う。

もうひとつ。村上文学の特徴のひとつは、独特の"トリビア記述"だとよく言われる。つまり、"着ているもの、読んでいるもの、聴いているもの、食べているものについて、やたら具体的に描写する"ということだ。彼の小説のなかでは、登場人物の衣服の生地まで指定されていることが多いし、流れている音楽の具体名もよく出される。料理については、言うに及ばず(ご親切に作り方のアドバイスまで登場人物に語らせることもある)。こういうことは小説ではよく採られる手法だけれど、それらディテールには宿命的に村上春樹的嗜好が染み付いているから、ハルキストな私はそういう箇所で純度の高い、云わば"ハルキ的匂い"のようなものを嗅いでクラクラとする。ワタナベくんのみならず、誰もが不思議な言葉で話す会話にしても、同様だ。映像だと、それを見える形で、聴こえる形で具象化してしまうから、そこのオイシイ部分を持っていかれる。そして残念なことに、具体的に見えるものや聴こえるものは美しかったけれど、私が頭の中で描いていたものとは結構違っていた。とりわけ、この小説で専ら「生」の牽引役を務める緑が、見た目のルックスは別として、とてもかけ離れていると感じた。

* * *

原作至上主義ファンの了見の狭きことよ、とお思いの諸兄、あるいは、やはり映画版はダメなのかと訝しまれた諸兄。少し悔しい気もするけれど、落胆より納得の気持ちの方が大きかったのは予想外だったと正直に告白しておこう。それは、この映画が「中核は外していない」からだと思う。一端の評論家気取りで言いたい注文や文句はたくさんある。けれど、小説が描き出そうとしている世界の中心に在るモノーそれを「喪失感」と表すかは別としてーは、きちんと表現していた。だから、観賞後に読後と似たような余韻が感じられた。無論、観賞後にふたたび原作を読み直してみると「ふん、やっぱり映画版は原作の足許にも及ばないな」と思ったのは言うに及ばず、ではあるのだが。食わず嫌いで観ないよりは、観て嫌いになって久しぶりに原作を読み直す方が幸せになれるかと思います。

| 映画レビュー | 23:54 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

> とめ蔵。さん

返信が遅くなり、失礼を致しました。お許しください。

あくまで私の個人的な感想なので、この小説の愛読家全員が
同じような余韻を感じるかは判りませんが...
仕事でなら「かなり外しているが、何となく将来性を感じる人」という感じです。
それは多分、一番掴んでおいてほしい中核は外していないからだと推測します。
でも、こういう把握力って映画でも意外に大切かなと思いました。

この映像化には、原作者自身の許可を得ているはず。
私にとっては、それだけで充分すぎる答えになっていると思います。

| pltr0 | 2011/01/29 13:26 | URL | ≫ EDIT

ありがとう。

「観賞後に読後と似たような余韻が感じられた。」

この言葉だけで十分伝わりました。

有難うございました。

| とめ蔵。 | 2011/01/24 21:57 | URL | ≫ EDIT















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