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From Finite to Infinite

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D700 + Ai Af Nikkor 35mm F2D


限られているということは、無限と裏返しであるということ

たまたま出先の本屋で買った『とっておき名短編集』(筑摩書房)に惹かれたのは、帯に書かれたコピーでした。
曰く: 北村薫をうならせた / 宮部みゆきがうなされた

パラパラと開いてみると、収録されている作家で知っているのは川上弘美、塚本邦雄、大岡昇平、北杜夫ぐらい。とは云っても、この人たちですら、名前は知っていても、作品は一度も読んだことはありません。しかし、自分の知らない文筆家はこの世にまだまだ数多といるものです。

この短編集に『一文物語集』という作品が採られている飯田茂美という方も、初めて耳にする名前でした。文字通り「一文だけ」で完結する物語(云わば、"スーパーショートショート")が108編が収録されています。これでもすべてではなく、抜粋したそうです。北村評によれば、「誠に稀有な書」。私も読みながら仰け反りました。文章を読んで、久しぶりに心が粟立つような感覚。この人は「音は白鍵と黒鍵、全部ここに揃っている」のに、「他人と違う言葉を使って書いて」いる。同じ原理で網膜に光を通しているはずなのに、まったく違う世界が映し出されている。

成田新勝寺にある、私の最も好きな額堂の写真と共に、少しだけ引用させてください。


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D700 + Ai Af Nikkor 35mm F2D

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彼は日曜日の出来事を詳細にしたためた日記を一冊書きあげるのに月曜日から土曜日までの六日間を費やして、遺産をゆるゆる食いつぶしている。(p.74)

 

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D700 + Ai Af Nikkor 35mm F2D

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何も食べる必要がなく、路傍で石鹸水を飲んでは、口からシャボン玉を吹いて、さまよい暮らしている。(p.61)



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D700 + Ai Af Nikkor 35mm F2D

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世界のすべての人々を愛するために、彼女は電話帳を開き、ひとりひとりの名前を精魂こめて覚え始めた。(p.45)


この『一文物語集』に収められた物語は、そのほとんどがシュールすぎるし、犯罪的な内容のもの、嫌悪感を催すようなもの、理解し難い話を含んでいます。そればかりか、奇しくも?この短編集に収録された作品は、どれもこれも気持ちよくは読めない最悪の読後感。しかし、北村氏が巻末で語っているように

心地よくないけれども、小説というものは決して、心地よくなるために読むだけのものではない(p.144)


のも確かで、私も選者たち同様「しかし、よく書いたよね、こんなものを」と思いながら本を閉じました。塚本邦雄の恐ろしく完璧な日本語で書かれた、出口のない完璧な世界(この作品を読むと、現代日本作家のほとんど誰もが日本語のアマチュアなのではないか、とさえ思ってしまう)。深沢七郎氏の独特な(そして決してブレない)一貫したスタイル、松本清張氏が冷静な筆致で描く"報われなくても信念を突き通す人物像"は、何も田上耕作だけではない。共に読書家の北村・宮部両氏らしい、凡人にはなかなか出来ないチョイスだと思います。

もうひとつ、最近読了して是非とも紹介したいアンソロジーがあるのですが、それはまた別の機会に。

| その他インプレ | 23:29 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

> invisibleAさん

記事にした本を探していただくとは光栄ですが
逆に申し訳ないような気も...。
というのも、とても万人に勧められるようなアンソロジーではないからです。
本当に爽やかな読了感は一片もなくて、できれば図書館で借りた方がよいくらい。

一昔前の作家の作品が多く収録されているため、現代作家の文章に馴れていると
構成や発想が素朴(前時代的)である印象は否めませんが
逆に清張はいつの時代でも色褪せないなぁと思ったりもしました。
何かの機会があったら、程度でお手に取ってみてください。

| pltr0 | 2011/06/06 20:28 | URL | ≫ EDIT

今日の午前中にこのエントリを拝見し、
午後から2軒ほど書店を回りました。
宮部・北村両氏の選によるこのシリーズは
何冊か棚に並んでましたが、見事に
「とっておき~」だけ品切れ。
きっとpltr0さんのブログを見た人たちが
買いに走ったのでしょう。

近日中にどこかで手に入れて、読むつもりです。

| invisibleA | 2011/06/04 21:36 | URL | ≫ EDIT















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